歩み値を1日ぶん記録したら、1万株ずつ売買するトレーダーの1日が見えた

ザラ場中、歩み値はものすごい速さで流れていきます。100株、200株、300株……。人間が目で追える情報量ではありませんし、追えたところで意味を読み取るのは無理です。多くの人は「大きな約定だけ拾えればいい」と割り切って、あとは見ていないと思います。

ところがこの流れを1日ぶん丸ごと記録して、あとから精緻に分析すると、まったく違う景色が出てきます。特定の1人のトレーダーが、その日どこで何株売って、どこで買い戻したのかが、名前も口座も分からないまま浮かび上がってくるのです。

今回は実例をひとつ紹介します。本日8/13のみずほフィナンシャルグループ(証券コード8411・当日出来高1,001万株)で、1日20回、すべて10,000株ちょうどの売買を繰り返していた参加者です。しかも歩み値をいくら眺めても、この10,000株は1回も画面に現れません

なぜ歩み値を見ても見つからないのか

先に種明かしをします。歩み値の1行は「注文1本」ではありません。

正確には 「1人の攻め手 × 1つの価格水準」 が1行です。誰かが成行で買い上がったとき、同じ値段の売り板を何枚食っても1行にまとまりますが、板を3段ぶち抜けば3行に割れて記録されます

つまり、板を10段食い破るような大口注文ほど、歩み値の上では「小さな約定が10個」に見えるわけです。「大きな約定だけ拾う」という見方をしている限り、いちばん大きい注文だけが構造的に見えません。ここが今回の出発点です。

まず、生の歩み値を見てください

10:01:54 前後の、実際の記録です。★を付けた行が、あとで「1本の注文」と判定されたものです。

  約定時刻      受信時刻      約定値     株数
  10:01:45  10:01:45.614   8,618      100
  10:01:47  10:01:47.333   8,616      200
  10:01:47  10:01:47.583   8,615      100
  10:01:47  10:01:47.583   8,615      100
  10:01:48  10:01:48.895   8,616      300
  10:01:48  10:01:48.895   8,617      300
  10:01:53  10:01:53.520   8,614      200
  10:01:53  10:01:53.520   8,613      300
  10:01:53  10:01:53.864   8,614      100
  10:01:54  10:01:54.491   8,612      700  ★
  10:01:54  10:01:54.491   8,611      500  ★
  10:01:54  10:01:54.491   8,610      900  ★
  10:01:54  10:01:54.491   8,609      900  ★
  10:01:54  10:01:54.491   8,608      800  ★
  10:01:54  10:01:54.491   8,607      700  ★
  10:01:54  10:01:54.491   8,606      800  ★
  10:01:54  10:01:54.491   8,605    3,700  ★
  10:01:54  10:01:54.491   8,604      800  ★
  10:01:54  10:01:54.491   8,603      200  ★
  10:01:54  10:01:54.677   8,610      100
  10:01:56  10:01:56.240   8,610      100
  10:01:56  10:01:57.207   8,609    3,000
  10:01:56  10:01:57.207   8,610      200
  10:01:56  10:01:57.207   8,611      500
  10:01:56  10:01:57.207   8,611      200
  10:01:56  10:01:57.207   8,611      100
  10:01:56  10:01:57.207   8,611      100
  10:01:56  10:01:57.207   8,612      800

  ★の合計 = 10,000株ちょうど(10行)

★の株数を並べると 700 / 500 / 900 / 900 / 800 / 700 / 800 / 3,700 / 800 / 200どれも何の変哲もない数字で、繰り返しもありません。 歩み値を眺めているだけでは、絶対に気づけません。

ところが合計するとぴったり10,000株。しかも8,612円から8,603円まで、呼値を1段ずつ10段、0.2秒足らずで食い下がっています。これは「10,000株の成行(またはIOC)売り注文が1本、板を歩き下りた」姿です。

1日で20回、すべて10,000株ちょうど

同じことを1日ぶん、全銘柄に対してやると、この参加者の1日が出てきます。

# 時刻 段数 向き 価格の動き
1 09:07:46 7 買い 8,644 → 8,650
2 09:08:27 6 買い 8,651 → 8,656
3 09:56:12 4 売り 8,613 → 8,610
4 09:57:46 7 売り 8,610 → 8,604
5 09:58:07 7 売り 8,619 → 8,613
6 09:59:23 8 売り 8,636 → 8,629
7 09:59:56 8 売り 8,638 → 8,631
8 10:00:09 9 売り 8,635 → 8,627
9 10:00:29 9 売り 8,626 → 8,618
10 10:00:42 9 売り 8,623 → 8,615
11 10:00:44 7 売り 8,619 → 8,613
12 10:01:54 10 売り 8,612 → 8,603
13 10:02:49 9 売り 8,610 → 8,602
14 10:03:09 10 売り 8,620 → 8,609
15 10:04:56 4 売り 8,603 → 8,600
16 13:06:30 7 売り 8,647 → 8,641
17 13:07:24 7 売り 8,645 → 8,639
18 13:47:15 3 買い 8,683 → 8,685
19 13:55:54 6 買い 8,708 → 8,713
20 14:02:30 2 買い 8,719 → 8,720

20本すべて10,000株ちょうど。合計20万株、約17億円です。当日出来高の2.00%にあたります。

そして株数の内訳は毎回バラバラです。 2段で終わる回もあれば10段まで食う回もある。数量だけを固定して、値段は板まかせという執行をしていることが分かります。

このトレーダーの1日を、株価と重ねる

その日の8411は、始値8,635円、安値8,534円(10:45頃)、高値・終値8,775円。午前に100円下げて、後場に240円戻して高値引けという日でした。

① 朝、小さく買う(20,000株・平均8,651円)

09:07と09:08に10,000株ずつ。寄り付きの値動きが落ち着いたあたりです。20,000株は、このあと出てくる玉の大きさから見ると小さい。様子見のサイズと読むのが自然でしょう。

② 午前、9分間で13万株を売り切る(平均8,616円)

ここが圧巻です。09:56:12から10:04:56までの8分44秒に、10,000株の売りを13本。合計13万株、11.2億円。

順番をよく見てください。最初の3本(#3〜#5)は8,610〜8,619円。ところが次の2本(#6・#7)は8,629〜8,638円と、より高い値段で売っています。いったん値が戻ったところに、また売りをぶつけているわけです。そこから#8〜#15で8,635円→8,600円まで押し切っています。

つまり「売る→戻る→戻ったところをまた売る→押し切る」。自分の売りで下がったあとの自律反発を、次の売り場として使っています。一度に投げれば値段は崩れますが、この売り方なら平均約定値を守れます。

結果として、その後株価は10:45に8,534円まで下げました。平均8,616円で売った玉に対して80円以上有利に動いたことになります。

③ 10:05から13:05まで、3時間まったく手を出さない

ここも見どころです。株価が8,600円から8,534円へ下げていく間、この参加者は1本も執行していません

この時間帯は5分あたりの出来高が3〜8万株で、午前の3分の1以下でした。板が薄いところに10,000株をぶつければ、自分で値段を悪くするだけです。売りたい方向に相場が動いていても手を出さない。この我慢は上級者の特徴だと思います。

④ 13:06、戻ったところをさらに売る(20,000株・平均8,643円)

昼をはさんで株価は8,647円まで戻していました。ここで10,000株を2本、追加で売っています。まだ弱気を維持していたということです。

⑤ 13:47、突然すべてをひっくり返す(30,000株の買い・平均8,706円)

ところが40分後、この参加者は買い手に回ります

  • 13:47:15 10,000株 買い 8,683 → 8,685円
  • 13:55:54 10,000株 買い 8,708 → 8,713円
  • 14:02:30 10,000株 買い 8,719 → 8,720円

直前に売った8,643円から、60〜80円も高いところで買い戻しているのです。しかも1回目より2回目、2回目より3回目と、値段が上がるたびに買い増しています

何が起きたのか。13:45からの5分間で、この銘柄の出来高が65万7,500株に跳ね上がりました。それまでの後場は5分あたり3〜10万株です。6倍以上の出来高で、8,654円から8,711円へ一気に抜けた。後場ずっと続いていた8,620〜8,665円のもみ合いを上に破った瞬間でした。

その後、株価は8,775円の高値引けです。

後場の転換 — ここが一番の勉強どころ

この日の20本のうち、いちばん学ぶところが多いのは間違いなく⑤です。理由を4つ挙げます。

1. 40分前の自分の判断を、あっさり捨てている

13:06に8,643円で売った玉は、40分で60円以上逆行しました。普通なら「もう少し待てば戻る」「ナンピンで売り上がる」と考えたくなるところです。

この参加者はどちらもやっていません。売り増しもせず、戻りも待たず、反対側に回った。自分のポジションではなく、相場のほうを見ています。

2. 値段ではなく、板と出来高の変化で判断している

13:47の買いは「8,683円が安いから」買ったのではありません。むしろ当日ここまでで最も高い水準です。

直前に起きたのは出来高6倍とレンジ上抜けです。つまり「相場の性格が変わった」という判断で入っている。価格の位置ではなく、流動性の変化を根拠にしています。これは値ごろ感で入る手法と正反対です。

3. 上がるたびに買い増している(ナンピンの逆)

8,685円 → 8,713円 → 8,720円。後から買うほど値段は不利ですが、方向が当たっている確度は上がっています。

ナンピンは「値段は有利になるが、外れている確度も上がる」。これはその逆です。どちらが良いという話ではなく、後者は損失が青天井にならないという決定的な違いがあります。1本目の買いが外れたら、2本目・3本目は執行されずに終わるからです。

4. 売るときと買うときで、執行のやり方が1ミリも変わっていない

20本すべてが「10,000株ちょうど・成行系・板を食い進む」です。売りでも買いでも同じ。相場観は180度変えたのに、執行ルールは変えていない

実は、この一貫性があったからこそ、私たちは彼を見つけられました。裏を返せば、執行が安定しているトレーダーは、記録さえあれば足跡を追えるということでもあります。

この日、彼は勝ったのか

10,000株のクリップだけを集計すると、こうなります。

区分 本数 株数 平均約定値 代金
朝の買い 09:07-09:08 2 20,000 8,651.3 1.73億円
午前の売り 09:56-10:04 13 130,000 8,616.3 11.20億円
後場の売り 13:06-13:07 2 20,000 8,642.6 1.73億円
後場の買い 13:47-14:02 3 30,000 8,705.5 2.61億円

買い5万株(平均8,684円)、売り15万株(平均8,620円)。差引10万株の売り越しで、終値は8,775円です。

ただしこれで損益は判断できません。 見えているのは10,000株ちょうどの執行だけで、この人が別のサイズで何をしたかは分かりませんし、前日からの持ち越しも、翌日への持ち越しも分かりません。分かるのは「意思決定の順番と、その根拠になったであろう相場の変化」だけです。そして今回いちばん価値があるのは、まさにそこだと思います。

中級者が明日から使えること

  1. 歩み値の1行を「1つの注文」と思わない。 板を3段抜けば3行です。大口ほど小さく見えます。
  2. 「一瞬の中の合計」を見る。 連続した値段の約定が同じ瞬間に何行も並んだら、それは1本の注文です。行ごとの株数ではなく足し算を見てください。ミリ秒表示や受信単位のグルーピングができるツールなら、目視でもかなり拾えます。
  3. 同じ合計が繰り返し出てきたら、同じ参加者を疑う。 数量を固定して値段を板まかせにするのが、大口の標準的な執行です。
  4. 薄いところで無理に執行しない。 この参加者は3時間手を出しませんでした。方向が合っていても、出来高が付いてこない場所では動かない。
  5. 転換の根拠を価格ではなく流動性に置く。 ⑤の買いは「安いから」ではなく「出来高6倍でレンジを抜けたから」です。値ごろ感で逆張りするより、はるかに検証しやすい根拠です。
  6. 間違えたら、待たずに反対側へ回る。 40分・60円の逆行で判断を捨てられるかどうか。ここが、この日いちばんの差だったと思います。

最後に — この分析の限界

正直に書いておきます。

  • 本人を特定したわけではありません。 「同じサイズ・同じ執行の癖」が20回繰り返された、という状況証拠です。複数人が偶然同じ10,000株を使った可能性は消せません。
  • 見えているのは10,000株ちょうどの分だけです。同じ人が5,000株や3万株でも執行していたら、そちらは今回の網に掛かりません。
  • 1銘柄・1日の話です。同じ参加者が翌日も同じことをするかは、別の日を記録して確かめる必要があります。
  • ただし買い/売りの判定はかなり信用できます。 通常のティックルールによる売買判定は、同じ値段が続くと直前の判定を引きずって当てになりませんが、今回の20本は板を2〜10段またいで実際に値段を動かしているので、方向は約定そのものから読めています。

それでも、ふだん「ただ流れていくだけ」の歩み値から、ここまで具体的な1日の物語が出てくるのは面白いと思いませんか。相場を見る解像度は、道具とデータで確実に上がります。